· 

何が読書に繋がるのだろう その5

 上田市には、その当時、まだ珍しかった子どもの本専門店がありました。名前を「英文堂書店」といい、福音館の子どものとも社の代理店もされていましたが、扱っている本は福音館の本とは限りませんでした。

 母がその子どもの本専門店の「英文堂書店」に出会ったのは、子どものともの月刊紙のハードカバー版を購入しようとした時だったようです。

 実際お店に足を運んで、初めて見る翻訳された外国の美しい絵本の数々に魅了されたことが、母が自分の子どもに絵本を買い求める動機になったのだと思います。

 私が幼い頃、母が絵本を見ては「こんなきれいな本が読めて幸せ」と折に触れて言っていたのを記憶していますし、とても嬉しそうに、楽しそうに絵本を与えてくれました。

 そして「英文堂書店」の店主とその奥様が、本を選ぶ際、母にアドバイスをしてくれていたと聞いています。

 それで、小学校入学を機に、絵本じゃない本という母の希望に沿ったものが、岩波子どもの本だったのだと思います。

 それから、私は月一回、岩波子どもの本を受け取り楽しむことができたのですが、それを実現させたのは、実際本を手に取って選べる場所があったからこそだと思います。

 そしてそれは、まだ本の面白さを判断するほど、読み慣れていない私が選んだのではなく、子どもの本をよく知っている書店のアドバイスを生かし、読書好きの母が選び、いいものとして渡された事で読書する楽しみを知る環境が生まれたのだと思います。

 特に計算されたわけではなく、偶然の重なりが読書に最適な環境を生み出し、私はその恩恵に与ったのではないかと思います。