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英文堂さんのこと

 私が発達過程に適した子どもの本に恵まれたのは、出版界に活気があり、子どもの本が積極的に出版され出した時代だったことと上田に子どもの本専門店の「英文堂書店」があったからだと思います。

 おとなになってから、絵本のことを体系的に教えていただいた荒井督子先生に、地方で育ってそれだけの本が手に入る環境は珍しいと驚かれたこともあり、客観的にみても恵まれたのだと思います。

 我が家では、英文堂書店を英文堂さんと呼んでいました。

 その英文堂さんで、月1回本を買ってもらっていたのですが、学年が上がると、買い与えられていた本は自分で選んでいいことになっていきます。

 その当時、英文堂さんは上田市の海野町という通りに面した所に入り口があって、縦に細長く奥に向かって一列にお店が並んだ横丁に屋根をつけたような上田デパートという所の一番奥にありました。

 通りから入った一番目のお店は、お惣菜やさん、隣はかつぶし屋さんといくつかのお店が並び出口のところと言ってもそこから入ってもいい裏通りに一番近い場所にありました。

 天井近くまで本が並び、狭いながらも美しいたくさんの本がぎっしり並んでいました。英文堂さんは、その後独立した店舗を構え、もっと広いお店になっていったのですが、私にとって最初の狭い英文堂さんが一番心踊る場所でした。

 本を買ってもらうときは、いつも母が一緒でしたが、自由に本を選ばせてもらった記憶があります。

 子どもの本の専門店で、どれを選んでも大丈夫という安心感が母にあったのだと思います。

 そして貼り函に入ったハードカバーの本を函から出して中を見る喜びは今も忘れられません。今でも私が装丁の美しい本が好きなのは、この時の高揚感が忘れられないからだと思います。

 既に大人の目できちんと選ばれた新品の本が並んでいる場所というのは、子どもにとって、かけがえのない場所だと思いますし

そんな場所が身近にあることは、子どもの読書を応援してくれると思います。