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絵本に返してあげる

 読んでもらった絵本を、子どもが手にとらない理由は、読み手が絵本の世界を自分のものにして、完成させて渡しているからだと考えています。

 これは、演劇や音楽を想像するとわかりやすいと思います。

 俳優や音楽家は、脚本や楽譜を読み込んで、自分の表現を作り上げ観客に届けます。

 自分に取り込んで、表現するというこの手法は、紙に記録された活字や音符が表しているものを俳優や演奏者が汲み取り、自分の肉体と一体化させ、観客を魅了する事が感動という心に直接訴えることに必要だからだとと思います。

 ですから、完成度が高ければ高いほど、元の脚本や楽譜がみたいと、観客に思わせないものなのではないかと思います。

 そして同じ演目でも誰が演じたか、演奏したか、が重要になってくるのだと思います。

 読書推進のための読み聞かせで重要なのは、読み聞かせを聞いた子どもがその絵本を読んでみたいと思うことだと思います。

 そのために誰が読んだのかではなく、どんな絵本なのかが聞き手に残るように、そしてもう一度じっくり読んでみようと思えるような読み方が必要だと考えています。

 子どもたちがおもしろかったと言ってくれるのは、読み手にとって大きな喜びではあります。

 けれど、その褒め言葉が読み手自身へのものだったとしたら、注意しなけれならないのだと思います。

 主役の座を絵本に返して、子どもが絵本を読んでみようと思える読み方を意識していきたいと思っています。