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読んであげましょうか?

 私の絵本の知識は、自分の子ども時代からの蓄積と、石井桃子さんや松岡享子さんなどの著作を手当たり次第読んでの独学でした。石井桃子さんは岩波子どもの本の翻訳者や作者として、親しみがありましたし、松岡享子さんはパディントンの翻訳者として馴染みがありました。今思えば、手探り状態の中でも、読んできたものに導かれて、知りたいことの答えを探り当てていたことに、読書の底力を感じます。

 そんな中で、私が初めて体系的に絵本について学んだのは、成田市立図書館で開催された荒井督子さんの講座でした。

 荒井さんは、石井桃子さんのかつら文庫の初代文庫のお姉さんで、千葉県立図書館に所属されていた方です。

 千葉県は、県立図書館から、市町村の図書館へ管理職を派遣し、公共図書館の運営をサポートしていたので、当時、成田市立図書館長をされていました。

 その講座は、知っていた事が点から線に、線から面になるような、隙間が埋まって、ワクワクするような時間でした。

 そしてそれ以降、師を見つけたとばかり、足繁く図書館に通い、質問する押しかけ弟子の私に、荒井さんはお忙しい中、時間を割いてくださって、導いてくださいました。

 私にとって児童担当の司書のイメージは、荒井さんの姿が大きいです。館長であっても、原点を大切にされていて、児童のフロアで、絵本を選んでいる子どもに、読んであげましょうかと声をかけ、子どもと隣り合って座り読んであげるのです。

 本の中では拾い上げられなかった、児童図書館員の本来の姿として焼きつきました。

 こういった、地味で目立たない活動の上に、読書は成り立っていて、求められる全てに応えられないからやらないというのは、一見筋が通っているようで、読書への誘いのチャンスを潰しているのかもしれないと思いました。

 そして知らない子どもに読んであげましょうかと声をかけることは、絵本を知っていなければできないことでもあると思います。学びの延長に何があるのかを見せていただいていたのだと思います。