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シンプルに考える

 子どもたちが本に親しんでほしい、本の楽しさを知ってほしい、本のおもしろさを知ったら、自分で読むようになるだろうという意見に反対する人は少ないと思います。実際子どもに読書に親しんで欲しいと実に様々な実践が生まれてきました。そしてどの取り組みもそれ以前にはない新しい実践でしたが、10年位の周期で新しいやり方が広まっていくという繰り返しを見てきたような気がします。

 この流れを見てきて思うのは、新しい取り組みをはじめる際、様々な現場で、実践者がどこに立って、誰に寄り添っているのかということが曖昧なまま、効果的と評価された、どこかで成果をあげた実践を取り入れきたように思います。

 なんとかしたいという意欲と新しい事を始めることがよびあった、お互いが求めあったという感じでしょうか。

 ここで考えて欲しいのは、本のおもしろさを、どう知るのかという点です。当たり前すぎて、意識されないことが多いですが、本のおもしろさは、本を読まなければわからないと思います。

 そこで活字を追う力を育むことが、読書に親しむ第一歩だと考えるところからシンプルに考えてみたいと思います。

 日本では最近まで識字に困難を抱える人の存在が注目されることはありませんでした。小学校へ入学するほとんどの子どもは日本語が母語だという環境です。文字さえ覚えれば読めると漠然と思われてきたのだと思います。

 けれど、読む力の中に、文字が判別できても活字を目で追えて、文章として捉えるトレーニング的な部分がないとは言えないと思います。

 自身が識字に困難を抱え、小学校へ入学してから識字のトレーニングをしたパトリシア・ポラッコの絵本には、彼女の子ども時代の奮闘を描いた作品があるので読んでみてください。読めるようになりたいという彼女の強い意志と彼女を支える家族、先生の姿は、私たちにヒントを与えてくれると思います。

 ハンディキャップを克服しようとする人とそうでない人を同列に並べるのは乱暴ですし、個人差もあると思いますが、それでも活字を追うことができるというのは、練習が必要なことなのではないかと思っています。

 そして図書館に関わる私たちは、子どもたちに忍耐を強いる形ではなく、楽しく練習できるように工夫しつつ、ポラッコを支えたおとなたちのように、本が必要なものだと信じる姿勢を保ち、子どもたちに接していけたらと思います。