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何度も読む

 私は、子ども時代好きだった本は、タイトルだけでなく、物語や、好きだった場面など細部まで思い浮かべることができます。

 けれど、おとなになってから好きになった本は、タイトルさえあやふやで、物語の展開は思い出せてもぼんやりした感じで、好ましかったという印象の方が強いような気がします。

 これは、子ども時代の方が記憶力が良かったからという理由では説明できないと感じています。

 実際、気に入った本を読む回数が違うからです。おとなになってから好きになった本は、読み返す回数は、せいぜい10回ほどで、2〜3回のものも多いです。

 けれど子ども時代のお気に入りの本は、正確には数えていませんが、少なくとも10回、多いものだと100回以上読んだものもあると思います。

 何度も読んで、何をやっていたのかといえば、物語の中に入り込んでいたということだと思います。何度も読むことで、物語の細部までリアルに思い浮かべることができたり、視覚的なものだけではなく、匂いや味、手触りといった五感まで動員できるようになったり、登場人物に自分が一体化する感じになったりしたのだと思います。

 この物語の住人になる感じは、何度も読んでこその感覚のような気がします。物語に入り込むことを現実逃避という言い方をして嫌う人もいますが、現実をきちんと把握していないと、この物語の住人になる感じは持てない気がします。物語の中へ行って現実に帰ってこれるからこそ、楽しくて、何度も読むことになるのだと思います。