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子どもの楽しみ おとなの楽しみ

 ストーリーテリングをしていると、昔話の構成に感心することがあります。骨組みがしっかりしていて無駄がなく必要最小限の言葉で物語が進む様は、ひとり読みを始めた子どもの本を考える時のヒントになると考えています。

 昔話は語られてきたものですから、聞いて理解できることが前提になっています。そのため読み物として読むと昔話の主人公の行動に共感できないと言われることがあります。主人公の心情や苦悩が語られることがほとんどないので動機が弱い印象なのだと思います。そして物語として稚拙だと評価されることもあります。また小説を読み慣れた人ほど昔話をおもしろいと思えないようです。これはおとなの小説の楽しみ方が反映されているためだと感じています。おとなは小説を読む時に細部まで読み込み考えながら読むことを無意識でしています。小説を読む時は同じペースで読み進めている訳ではないからこそできることです。けれど昔話は止まることなく同じペースで物語が進むものです。考えながらではなく物語の展開に身を任せついていくことを楽しむ作りになっているのです。小説と同じ楽しみ方ができないのはそのためで、小説と同じ扱いでは比較できないと考えています。

 そしてこの一見荒削りな印象の昔話は物語に慣れていない子どもを物語の世界へ誘う力があります。主人公の行動は選択の余地がないものとして語られ、迷わず物語の展開に身をまかせることができるからです。そして主人公以外の登場人物に煩わされることなく誰について行ったらいいのかが明快です。加えてただ単純なのではなく口承されてきた分、内包しているものがあることも重要です。この辺がひとり読みを始めた子どもたちに向く物語を見極める要素だと考えています。

 子どもの読書を考える時に、発達段階を意識する必要があるのは楽しみ方が進化していくからだと感じています。最終的にはおとなの楽しみ方に向かうとしても、子どもの楽しみ方を知って本を選ぶ必要があると考えています。