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読み継がれること

 本の出版点数が増え、毎年毎年途切れることなく新作が生み出されています。到底読み切れない本とどう付き合うのか難しい時代になっています。読書の楽しさを知っていても何を読もうかと考えた時、選択肢が多すぎて選べないと思うことがあります。特に新刊にときめきを感じなくなっています。私が歳を重ねて新刊を追うことに疲れてきたせいなのか、実際新刊に魅力がないのか自分でも判断がついていません。

 ただ最近、作家が職業として執筆をとらえる傾向が強くなっていると感じています。作家が職業として成り立つことに問題があるのではなく、成り立つために書くことが読者にとって歓迎すべき結果を生まないのではないかと思うのです。作家を生業とするには一定程度の収入が見込めないと生業にはなりません。そのため作品を数を数多く生み出す必要が出てきます。数をこなすには効率よく書ける必要があり、そのためのテクニックが生まれます。書くための取材や情報収集などもできるだけ効率化する必要が出てくるのではないかと想像します。そんな中でコンスタントに質を落とさずに描き続けるには才能と努力が必要だと思います。

 けれど効率化を図ったら表現できない世界もあると思います。効率化の対極にある作品で思い浮かぶのがロバート・マックロスキーの『かもさんおとおり』です。アメリカのボストンの街を舞台にマラードさんというかもの夫婦が卵を孵す絵本なのですが、子がもたちの姿が実に生き生きと描かれています。この魅力的なかもを描くために、マックロスキーは自宅の浴室で実際かもを飼って観察したという創作の背景を知った時は本当に驚いたものです。このマックロスキーのこだわりが思わず見入ってしまう躍動感に溢れ表情豊かなかもの絵になっているのだと感じます。 

『かもさんおとおり』は1941年にアメリカで出版され、日本では1965年に出版されました。出版されて80年読み継がれている絵本です。時代を超えて評価される本は効率化と無縁の世界で生み出されるのではないかと感じています。

 効率化に異論を唱えると時代が違う、懐古主義と言われます。けれど消費されていく本と読み継がれていく本があることも事実です。また違いを生むのは効率化以外の理由もあるのかもしれません。理由はどうであれ読み継がれてきた本を守り、読み継がれていく本を見極め大切にしていきたいと考えています。