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古びないこと

 私が子どもの読書に関わるようになったのは、ストーリーテリングを始めたことがきっかけでした。昔話を語ることが出発点のせいか、物語の根幹は普遍的価値で形作られていると感じています。

 例えば昔話は世界中で類話を見つけることができます。生活様式や風習が違っても似たような物語が生まれているのです。ただ聞くことが前提の昔話だと物語の長さには限度があります。この限度が物語の共通項が生まれやすい原因のひとつかもしれません。

 けれど時代が下るにつれ物語は聞くものから読むものになっていきます。それに伴い物語の設定は複雑になり、物語はより説得力を求められるようになったと感じています。そして物語の種類は増え続けています。こうなると読者は物語に新鮮味を求めます。物語は読者を納得させ共感させることも求められるのでテーマは普遍的なものから大きな変化は望めません。そこで設定や構造に工夫を凝らし時代の空気を取り込んで古さを感じさせない本の評価が高い傾向にあります。

 けれど私は子どもの本に関して、今風な作りや設定、古さを感じさせない工夫はそれほど重要なことではないと考えています。読者である子どもは振り返る過去をおとな程持っているわけではありません。そして流行の移り変わりを時間軸で区切るからこそ時代感となり、区切りの数が増えるほど時代の移り変わりを感じるのだと思います。そのため生まれてからの時間が長いおとなの方が時代を感じ、子どもはさほどでもないだと思います。加えて子どもは実生活と違う場所で様々なことが起こることを受け入れることで物語を楽しんでいます。おとなの目から見て古びた感じがする設定でもおとなほど違和感を感じないのだと思います。子どもの本を考えるとき、その本の内容が古びないかどうかは、読者である子どもの共感を得られるかにかかっているのだと思います。そして読み継がれてきた本は普遍的なことが題材として扱われ目新しさは感じませんが古びることなく読者の共感を呼んでいるのだと思います。