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選択肢

 選択肢が多いほど、自分の欲しいものが手に入るかというと、そうでもないことがあります。的確に選ぶには、それなりの知識と自分の要求に優先順位がついている必要があるからです。ですから選べない時は優先順位が整理できていないことが多いと感じています。

 そしてそれは本についても同様だと考えています。特に本のおもしろいの感じ方は自分の感覚が基準になります。おもしろいには幅があり、現実を忘れて物語の世界に没頭する楽しみから、抱えている問題の解決策が得られるような現実に直結したものまで様々です。どちらにせよ本だけではおもしろいは成り立ちません。そのため選ぶことが重視され選択肢が多いことが大事にされるのだと考えています。

 けれど以前、知り合いと図書館の話をしていたとき、その人に「図書館には一生かかっても読みきれない本があることにやりきれなさを感じる」と言われ驚いたことがあります。その人が図書館愛用者で、読む人だっただけに強く印象に残りました。私は蔵書の多さは歓迎していて、選択肢が多い方が読みたい本に出会う確率が上がると思っており、読む人は皆同じだと考えていたからです。そのため数量に対する感性は様々だと意識した出来事でした。

 子どもの場合、自分で選ぶことだけが全てではないというのが私の持論です。これは選択肢の問題とつながっていると思います。「本は与えられるものではなく、自分で選ぶもの」という考え方は読書の楽しみを知っている多くの人が共感する考え方だと思います。そして読書を楽しんできた人は自身の子ども時代を振り返っても自分で選んできたという実感があるかと思います。けれど、自分で選ぶに至る前段階はどの人にも必ずあり、その前段階のあり方について考えるのが、子ども読書推進の基盤だと考えています。じっくり子ども時代の記憶を遡っていくと自分で読んだのか、読んでもらったのか曖昧な本が出てくるのだと思います。子ども時代の読書の話が自分で読んだ自覚のある本からスタートするため選ぶことが重視され選択肢が多いことが重要視されるのではないかと考えています。