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積み重ねの威力

 毎日の積み重ねが重要だというのは誰もが思うことだと思います。けれど本当に積み重ねられる人は多くないのが現実です。かくいう私もコツコツ積み重ねることは苦手です。そんな中で積み重ねの威力を知る機会がありました。

 昨年、緊急事態宣言で4月から2ヶ月学校が休校になりました。今まではこの2ヶ月を切り取って考える必要がありませんでしたが失ってみてどんな時期だったのかを再確認することになりました。この期間は新一年生にとって保育園などの幼児の集団から小学校という新しい集団に適応していく大切な時期です。それがやむを得ずその時期を集団から切り離されて個で過ごすことになりました。結果、去年の新一年生は2ヶ月の遅れだけではなく、保育園などで身につけた集団生活を忘れたマイナススタートになったのだそうです。

 昨年の一年生を担当した先生方は皆さんそのマイナススタートの対応に追われたのですが、マイナススタートを補うものの一つとして読み聞かせを積極的に取り入れた先生のクラスの子どもたちにストーリーテリングをする機会がありました。担任の先生から子どもたちが読み聞かせを好むことを伺っていましたが、担当クラスの子どもたちが読み聞かせを好むとおっしゃる担任の先生は多いので特別だとは思いませんでした。けれど実際語ってみて驚きました。子どもたちが物語に入ってくる感じが違うのです。聞き手同士が距離を置くので、語り手が声を張らざるを得ないのですが、それがもったいないと感じる様な聞き方です。物語を丸ごと受け止める聞き方が身についていると感じました。そこで読み聞かせの状況を詳しく伺ったところ、毎日欠かさず朝の時間に読み聞かせをして、定期的にクラスで図書館へいく機会を増やし学校司書にも読み聞かせを積極的に受け持ってもらうという3つのことを続けたそうです。一見何の変哲もない活動に見えますが特筆すべきは子どもたちが落ち着かず座って聞くことがうまくいかなければ、学校司書だけでなく他の先生の協力を仰ぎ、読み手とルールを教える人と役割分担しながら根気強く続けたことにあると思います。読み手とルールを教える人を分けたことによって、「口を閉じなさい」「席に座りなさい」という全体への指示ではなく、個々の状態に合わせて聞けている子の集中の妨げにならないような指導が可能になったのです。これは先生が絵本の楽しみを知っていらして、子どもたちにも絵本を楽しんで欲しいという強い意志があってこその対応だと感じました。子どもたちが絵本の内容に集中できる集団となれるのは、この様な地道な積み重ねによって生まれるのだと感銘を受けました。毎日続けることの威力を目の当たりにして、学校でしかできないことが最近忘れられがちかもしれないと思いました。