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楽しみのひとつ

 読書の入り口として、読み聞かせは必要だと考えています。それこそ暗記するほど何度も読んでもらうことが、まずは読書の扉を開くと感じています。読み聞かせが育む力の中で繰り返し読んでもらうことは言葉を育てることにつながっていると思います。ブックスタート事業が日本で広まった時のキャッチフレーズに「絵本は心のミルクです」というものがありましたが、心以前に言葉の習得と大きな関係があるのだと思います。もちろん言葉は意思疎通のために使うものですから、習得した言葉を使って思いを伝えたり受け取ったりすることは心を育てることでもあります。けれど心を育てるということに囚われすぎると本質を見誤るとも感じています。もっとシンプルに言葉を育てると考え、母語の習得という意識を持ってもいいのではないかと思います。

 母語は「言語を習得しよう」という意志が生まれる前に習得が始まるので、学んだという意識が薄くなんとなくいつの間にか身についていたような気がするものです。けれど生活と共にあるので母語と向き合う時間は長くそして日々が習得の場です。自分の要求を伝えるために必要に迫られたり、楽しみである遊びの中に言葉の習得が自然と組み込まれているのです。人間として生きていくために設定されているとも思えるこのシステムを使わない手はありません。絵本は子どもにとって遊びの中にあります。たくさんある楽しみのひとつとして絵本を捉えています。読み聞かせを嫌いな子どもがいないのは楽しみのひとつとして認識されている部分があると思います。読み聞かせから1人読みへの橋渡しはこの楽しみのひとつという部分をいかに壊さずにつなげていくかにかかっていると考えています。加えて楽しみが単なる娯楽にならずに読書へつなげていけるかも腕の見せ所だと思っています。