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知らないこと

 新しい教育指導要領での教育が始まり子どもたちの主体的な学びを促進する動きが加速してきました。小学生から高校生まで連動するので教育指導要領の威力を感じています。そして今までと違う教育が始まる時というのは、子どもたちに新しい価値基準が当てはめられるということでもあり、今まで見えていなかった子どもたちが抱える問題点が浮かび上がる時でもあります。

 既にいろいろ問題を感じていますが、一番気になっているのは「知らないこと」との付き合い方です。詰め込み教育と言われる偏差値で評価されていた世代は「知らないこと」は恥ずかしいという感覚があったと思います。そのため調べることや知識の吸収に熱心だったと思います。調べる意欲というのは知識欲があってこそのものです。

 けれど今の子どもたちは知識欲が薄いと感じています。原因は「知らないこと」に対する向き合い方が変わってきていることではないかと予測しています。理由として考えられるのは、二つです。

 ひとつは個性の捉え方の変化です。「オンリーワンであるあなた」という価値観が普及し、自分の感覚を守ることが大事だと幼い時から教えられているため、興味のないことは知らなくてもいいと感じている子どもが増えていると思います。本来個性は守るものではなく他者と比較することで見えてくるものです。他者との違いが個性だとも言えるからです。そして個性は評価されることもあるでしょうが批判されたり傷つけられたりすることもあります。それは個々が乗り越えなければならないことで受け入れない相手のせいばかりではないことを知ってこそ個性になるのだ思います。そこを伝え損なっているために「知らないこと」と個性が混線してしまっていると感じています。

 もうひとつは親子共にデジタルネイティブの世代だという点です。この世代で既に第二世代となった今の子どもたちはネットで見れば事足りるという感覚を持っています。知らなくても動画で見れば何でもできると思っている節があるのです。なりたい職業にユーチューバーがあがる程、子どもたちは動画に親しんでいます。また必要な知識は覚えなくとも必要な時にネットで見ればいいという感覚もあるように見受けられます。加えて膨大な情報から正解を導き出すと言われるAIとの共存世界の到来も知識の蓄積はAIの役割で自分たちは覚えること必要がないという意識を子どもたちに持たせているのではないかと疑っています。

 そして時代はより個性を尊重しネット環境が学校教育に欠かせない状況になっています。「知らないこと」とどう向き合い何が学びなのかを子どもたちに伝える役のおとなはデジタルネイティブではない人が多いため、時代の変化に戸惑い消極的になりがちです。けれど「知らないこと」との向き合い方は実は変わっていないのだと思います。「知らないこと」を知る喜びは人間に備わった能力だと思います。そして知識を蓄積することで新しい発想が生まれ進化してきたことを私たちは知っています。ですから知識は尽きることなく世の中知らないことに満ちているからこそ楽しいという感覚を子どもたちと分かち合えるといいなぁと思っています。