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古いものと新しいもの

 手紙は使われてきた長い歴史があるので、書き方に決まり事があります。作法と言ってもいいかもしれません。書き出しの言葉から終わりの言葉まで決まっているので、手紙の書き方を調べればそれにそって書くことができます。そして例として定型文があるため画一的なものになりがちで、誰が書いているのかが見えない感じになることもあります。けれどその分書き手も読み手も手紙のルールに則ってやりとりするので完成度が高く安心感があります。そして基本的には手書きの方が丁寧とされ書き文字に人柄を見る風潮があります。手書きでなかったとしても署名は手書きでと言われるのは書き文字に重きを置いているからだと感じています。

 対してメールやラインなど手紙に似た機能を果たす新しいツールは、手紙のように万人が認める書き方の決まりはありません。そのため使う人の工夫の余地が大きく様々な使われ方をしています。やりとりの速さが魅力なので、特にビジネスシーンではメールが手紙の役割を果たすようになってきていると感じています。そのためビジネスメールを読んで手紙のようだと感じることがあります。けれど手紙ではないので、やめどころが分からないのが新しいツールを使う際、私が困っているところです。どの段階で返事を出さなくて良いのかいつも迷います。そして入力した言葉が漢字に変換されるため自分では書けない字を使ってしまったり、内容にそぐわない漢字を選んでしまったりするので自分で書くより漢字の知識が必要だと感じています。便利なものは意外と使いこなすのに知識が必要なのだと思います。そして新しいものを使いこなすというとそのツールの操作方法ばかりが注目されますが、一般的な読み書きの能力も、より高度なものが必要だと使っていて思います。

 新しいツールが生まれ取り入れられるようになると、新しいものの優位性ばかりが注目され、新しいものを使いこなすために古くから使われているものが軽んじられることがあります。けれど古いものの優位性もあると感じています。新しいものと古いものは使う際により目的にあったものを選ぶことができるといいのだと思います。そして人とやりとりするという点でどちらも同じカテゴリーのものですから、基本的に必要な能力は変わらないと感じています。自分で書く訳ではないので、漢字の書取りなど前時代的な学習だと批判する人たちもいますが、自分の手で書かなくとも日本語を使う以上、漢字を知らなければどの漢字を選んでいいのか判断できませんし、選び損なっても違和感を持たないので間違いに気がつきません。また人工知能に多大な期待がかかり自分で選ばなくとも人工知能が選ぶからと考える人もいますが、どの漢字にするのかあえて平仮名を使うのかは個人のセンスのため人工知能が導き出す答えと一致するとは限らないと感じています。新しいことが取り入れられてきても変わらないものがあることを忘れないようにしたいと考えています。