· 

こねこのぴっち

 読み始めの子どもたちに勧めたい本をあげるにあたって、まず思いつくのは岩波子どもの本です。岩波子どもの本というシリーズでたくさんの作品が出版されていて、どれも甲乙付け難い作品が多いのですが、まず取り上げたいのは

『こねこのぴっち』ハンス・フィッシャー/作 岩波書店 です。

 スイスの絵本作家ハンス・フィッシャーの『こねこのぴっち』は1948年にスイスで出版されました。日本では1954年に岩波子どもの本で20.7×16.4cmのサイズで出版され今も読み継がれています。1987年には22.6X32.8cmの大型絵本として出版され、こちらも子どもたちに親しまれています。

 この物語の良さは、やはり魅力的な絵にあると思います。特徴的で一回見たら忘れられないフィッシャーの絵は装飾的で動きのある線が物語を生き生きと進めていきます。何よりぴっちが愛らしく、好奇心いっぱいのこねこらしい表情は読み手を物語の世界に誘います。そしてぴっちの行動に子どもたちはハラハラしながら物語の展開に無理なくついていきます。子どもの生活に近いところでの冒険で想像しやすいのだと思います。実は私も子ども時代に読んだ本で好きな物語でした。そして今子どもたちに紹介して楽しんでいる物語です。

 そして期せずして2つのサイズでおなじ物語を楽しむことができるこの絵本は「読んでもらう」ことと「自分で読む」ことを考える材料になります。もともとぴっちはスイスでは大きい方のサイズで出版されたので、岩波子どもの本は横長の絵を縦長の本のサイズに合わせてトリミングしています。けれど自分で読むなら、このカットされた絵が物語の魅力を削いだかといえばそんなことはないと感じています。物語自体も魅力的で絵だけが語っている訳ではないからです。読み始めの子どもは先へ先へと物語を読み進めることに力を使っているので、止まってじっくり絵を眺めると物語の展開を追う気持ちが薄れてしまうことがあります。そのため自分で読むときは読み聞かせの時ほど子どもは絵に注目していないと感じています。ただ繰り返し読むことで文章を追うことが苦にならなくなってくると絵を隅々まで楽しむ余裕が生まれると感じています。自分で読むようになると絵だけを追う訳ではないので絵が全てを物語っていなくても物語を受け取れるようになるのだと考えています。