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王さまと九人のきょうだい

 『王さまと九人のきょうだい』中国民話 君島久子/訳 赤羽末吉/画 岩波書店 は中国の少数民族に伝わる昔話を絵本にしたものです。文章の量が多く絵本としては絵が少なく挿絵としては絵がふんだんに入っていて絵本なのか読み物なのか迷う作りです。集団の読み聞かせが盛んになる以前は、絵本を読み聞かせるといったら親子で楽しむことが前提だったので、言葉の習得が進み長い物語を楽しめるようになった子どもに親が読み聞かせるものとして作られたのではないかと想像しています。昔話らしく善悪がはっきりしていて主人公の活躍が痛快なので子どもたちが物語の展開に夢中になる絵本でよく紹介しています。

 腰が曲がるほど歳をとった貧乏な老夫婦がそれでも子どもが欲しいと願い続けていたら、仙人が現れ飲むと子どもが生まれるという九つの丸薬を授けてくれます。おばあさんが丸薬を飲むと九人の子どもが生まれ、また仙人が現れ名付け親になってくれます。仙人は九人に「ちからもち」「くいしんぼう」「はらいっぱい」「ぶってくれ」「ながすね」「さむがりや」「あつがりや」「切ってくれ」「みずくぐり」という一風変わった名前をつけますが、その子たちはその名の通りの特殊な能力を持った子どもたちでした。この奇妙な名前とその能力は子どもたちを虜にするのだなぁと紹介するたびに思います。そして描かれている九人の姿は特徴を表しつつどこか似ていて物語の真実味を増していると感じます。長じて九人の子どもたちはそっくりの姿に育つというのはこのお話の肝なのですが赤羽さんの絵は巧みに生き生きと主人公たちを書いていて物語を盛り上げます。昔話らしく余計な説明を入れずにぐいぐい進む物語の作りは読者を先へ先へと誘います。物語の作りと絵の魅力が相まって読み始めの子どもたちにぴったりの作品だと感じています。