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ロバのシルベスターとまほうの小石

 『ロバのシルベスターとまほうの小石』ウィリアム・スタイグ/作 評論社 は1970年度のコルデコット賞を受賞した作品です。スタイグは時事漫画家としても活躍した人で、登場人物はどこか飄々とした姿で描かれ、どことなくユーモアを感じさせます。『ロバのシルベスターとまほうの小石』は読み聞かせでも使われる事がありますが、読み始めの子どもたちが自分で読んでも楽しい作品です。それは物語の展開にあると感じています。子どもたちを無理なく引きつけるエピソードから始まりどうなるのだろうと思わせる物語なのです。

 石が大好きで石を集める事が趣味のシルベスターがある日奇妙な小石を拾うところから始まります。真っ赤でビー玉のようにまん丸で道端に落ちているのが不思議なくらいきれいな小石の描写に子どもたちはグッと物語に入り込みます。そしてあまり夢中になって小石を見ていたので雨が降ってきたことに気がつかず、それでも肌寒さを感じてぼんやりと雨止まないかなぁとシルベスターが思ったとたん、からっと晴れたことからシルベスターはこの小石に力があるのではと考え物語が動き出します。シルベスターが本当にこの小石に力があるのか試してみるところや、まほうの小石を手に入れたという高揚感など子どもが共感しやすい事が次々起こりそして事件が起こります。絵も物語の中の展開を後押しし物語に説得力を持たせています。この物語の進み方はどうなるのだろうという興味が途切れる事なく無理なく子どもたちを物語の結末へ導きます。読み始めで活字を追う事が苦手でも先が気になって何とか読み進めようとさせる力があるのです。特筆すべきは結末だけ読もうと思わせないシルベスターの魅力です。読み手をシルベスターと共にありたいという気持ちにさせ、画面いっぱいに描かれる風景が時間の経過を言葉以外でも伝えてくれます。あらすじだけで読んだ気にさせないところも好感が持てます。読みはじめの子どもたちに必要な要素を備えていると感じさせる作品です。