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ウェズレーの国

 『ウェズレーの国』 ポール・フライシュマン/作 ケビン・ホークス/絵 あすなろ書房  は読み始めの子どもたちはもちろん、小学生全般にお勧めの絵本です。絵本の形をとっていますが、読み物として中学年、高学年と年齢を重ねて読み返すと心に響くところが違うかもしれないと思います。

 主人公のウェズレーは他の子どもたちと同じ事をしないという点で一風変わっていると子どもたちからも親からも思われています。好物も髪型も好きな遊びもウェズレーに賛同する人がいませんが自分の好みを貫きます。そのため1匹狼なのですが一向にそれを気にしておらず生活を楽しんでいる様子が絵と物語の展開から伝わってきます。そしてその集大成として夏休みの自由研究に自分だけの文明を作るという壮大なテーマに取り組みます。発端は風に乗ってどこからか飛んできた不思議な植物の種がウェズレーの家の庭で発芽したという、物語としては説得力に欠けるスタートなのですがその後の展開がその脆弱さを忘れさせる素晴らしさです。ウェズレーはその見たこともない植物を雑草と決めつけず外野の声をものともせずに大切に育てその植物を使って衣食を賄い生活していくことになるのですが、ウェズレーの発明と工夫は目を見張るものがあり、読み手の子どもたちを引き込んでいきます。そして新しい文明という言葉通り、言葉や単位とウェズレーの生み出すものは広がりを見せます。作者の伝えたいことを深読みしようとすればできる作品ですが、あえて物語の展開に身を任せた方が読み手の満足感があると思います。その分年齢を重ねて読み返すことで、気になる部分が変わってくるのだと思います。自分の読後感で紹介するとこの作品の真髄が損なわれるタイプの物語だと思います。