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はなのすきなうし

 『はなのすきなうし』マンロー・リーフ/作 ロバート・ローソン/絵 岩波書店 は1937年にアメリカで出版され日本では1954年に岩波子どもの本の一冊として出版されました。物語の舞台はスペイン。原題が『THE STORY Of FERDINAND』であるように、とある牧場に生まれた子牛のフェルジナンドが主人公です。フェルジナンドは花の匂いを嗅ぐのが好きで、一日中誰とも遊ばずに日がな1日お気に入りのコルクの木の下に座って花の匂いを嗅いで暮らしています。いつも一人なのでお母さんが心配しますが、フェルジナンドの言い分をちゃんと受け止めてフェルジナンドの望むようにさせてくれます。絵は色を使わずに白黒で描かれ、遠景になっても表情がアップになっても物語の雰囲気を的確に捉えていて読み始めの子どもたちにぴったりです。特にフェルジナンドの表情が秀逸で、おっとりしていて頑固な感じをよく表しています。そして物語の転換点となる場面もユーモアを感じさせ子どもたちを惹きつけて先への興味を逸らしません。

 また「スペイン」を「すぺいん」、「フェルジナンド」を「ふぇるじなんど」といったようにカタカナが使われていないので、おとなの方が読みにくいと感じるかもしれませんが、子どもたちはあまり気にならないようです。そしておとなはこの物語を自分らしさを守り自分らしくあることを肯定していると解釈してしまいがちですが、それはあくまで自分で気がつく事があれば気がつけばいいことで、読んですぐ分からなければならないものではありません。特に読み始めの子どもたちにとって解釈できる事と読む力の有無とは無縁のものだと考えています。物語に解釈を加えなくてもこの物語は十分魅力的です。加えて作中に闘牛が出てきますが、これも歴史も絡んで賛否両論あるものです。闘牛で牛が殺されるシーンが取り上げられていない以上、この作品に動物虐待のようなおとなの感覚を取り入れる必要はないと思います。マンロー・リーフとロバート・ローソンは友人関係にあったそうですが、どちらも子どもの本に関して並々ならぬ熱意を持っていたようです。この二人に限らずこの時代のアメリカで活躍した絵本作家の子どもに対するまなざしには学ぶべき事が多いと感じています。