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ふるびたくま

 『ふるびたくま』クレイ・カーミッシェル/作・絵 BL出版 は色使いも絵の雰囲気も内容にとてもよく合っていて雰囲気のある本です。少しくすんだ感じの中間色が使われていておとなっぽい印象ですが、この色使いが主人公の古びていくぬいぐるみのくまを引き立てます。子どもに大事にされて古くなったぬいぐるみの話はたくさんありますが、この話はぬいぐるみや持ち主のクララの心情が何をしたかという行動で表されています。そのため感傷的になりすぎず、どうなるのだろうという興味を保たせつつ物語が進みます。そしてクララがとった解決策が絵と相まって心にひびきます。読み始めの子どもたちにとって心情的に寄り添いやすい内容で、おもちゃのぬいぐるみを主人公にした作品なのに子どもっぽくないことも喜ばれる点だと感じています。

 この作品は同じ登場人物で1997年に『海辺のくま』1999年に『ふるびたくま』2004年に『まいごのくま』と日本語に翻訳されて3冊出版されています。ただシリーズというには『海辺のくま』だけ内面の悩みが前面に出ているので読み始めの子どもより小学校高学年以上、もしかしたらおとなの方がより心に響くかもしれません。そして残念ながら『海辺のくま』以外は品切れでした。穿った考え方かもしれませんが、おとなが自分のために購入したいと思える本は買い支える事ができるけれど、子どもの本はおとなが子どもの本を見極めることができなければ買い支えられないのかもしれないと思いました。読み始めの子どもたちにお勧めで今も子どもたちが喜んで読んでいる本が品切れになっていくのを見るのは辛いものがあります。選書する際に子どもが喜ぶからといって話題になりやすい新刊を追いかけることばかりに注力すると、子どもも新刊ということに本の価値を見いだすようになり、さらにそれが本を読み捨てていくことにつながるので子どもの読書を軽んじていくことになる気がします。出版の事情もあるのは理解していますが、読み継がれていくという視点を持ち続けていきたいと考えています。