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本の形

 自分の子ども時代、絵本と本の違いを感じていたという記憶があります。絵本から本にステップアップしたという感覚があったからです。自分の中で絵本と本を区別する要素が何だったのか思い出してみると挿絵の量や文字の量ではなく本のサイズ感に違いを感じていた気がします。大きくて薄い本が絵本で小さくて厚い本が本という単純な感じです。もちろん自分で読むのか読んでもらうのかという違いが大前提ですが、岩波子どもの本は自分で読んだことと合わせて本を読んだという実感を私に持たせてくれたのだと思います。そして絵本を卒業することは誇らしいと感じていました。絵本から本へというのは子どもにとって自分の成長を実感する機会でもあると考えています。

 けれど子どもたちと関わっていると、年々絵本から本へという感覚が薄くなっていると感じています。絵本が子どもだましのものではなくその質がちゃんと評価されジャンルとして確立したことは喜ばしいことだと思います。けれど絵本が評価され、おとなも楽しめるという感覚が社会に広がるにつれて、子どもたちが絵本を手に取ることも推奨されるようになってきました。以前のようにいつまも絵本を読んでいるのはいかがなものかという感覚がなくなってきたのです。いつまでも絵本を読んでいるのがいけないというのは行き過ぎだと思いますが積極的に絵本を読むように勧めるのも行き過ぎだと感じています。年齢を重ねるにつれて絵本が読みたい日があってもいい位がちょうどいいのだと思います。最近は自分で読むことを前提にしたおとな向けの絵本なども多数出版されていますが、本来絵本は読んでもらうことと切り離せない部分があります。自分で読む楽しみを覚える時期は絵本も自分で読んで楽しいと思える事が大事で読んでもらって楽しい時との切り替えが必要です。そのため絵本の扱いを慎重にする必要があるのだと思います。その点で岩波子どもの本は絵本の形を変えることで自分で読むものとして子どもたちに印象づけたのではないかと思います。ただこれは意図的に行ったことなのかは判断する材料がありませんが、ひとり読みを考える上でヒントになっていると感じています。