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はろるどとむらさきのくれよん

 『はろるどとむらさきのくれよん』クロケット・ジョンソン/作 文化出版局 は1955年にアメリカで出版され、日本では1972年に翻訳され出版されました。現在手に入るのは1972年版ではなく1986年版なのですが比較したことがないので違いを把握していません。けれどロングセラーであり守り続けることができた本です。

 この本は読み始めの子どもたちに必ず紹介する本の一冊です。線で表現されるシンプルな絵、はろるどが紫色のクレヨンで描いていく様が描かれているので色は紫の線が印象に残るように絞られています。そして絵と文章が一致していてとても読みやすい作りですが本のサイズ感やベージ数は絵本というより本の作りなのです。作者のクロケット・ジョンソンは漫画家でもあったので、ページをコマに見立てた作りといったらいいでしょうか。そして主人公のはろるど以上の存在感を発揮する紫のクレヨンは子どもたちを一気に物語の中へ引き込みます。それこそそんなものあるわけないという疑問を感じさせる余裕もなく物語が進む様は、子どもたちに紹介するたびに感心しています。そして反射に近い感じで次々と解決策を繰り出すはろるどに子どもたちは喝采を送りつつ爽快感を感じているようです。

 出版社のホームページで「むらさき色のクレヨンで描いた世界へ楽しい旅に出かけます。空想と現実が交錯する子どもの心理、幼児の想像の世界を自然に展開していきます。」とこの本を紹介しています。けれどこうやって大人の視点で見てしまうと子どもたちが魅了されていることが狭められて伝わってしまうと感じています。必要なのは、この物語が子どもの目線ではどう見えるかということなのかもしれません。私がこの本を紹介する時に物語に書いていないことで付け加えているのは、はろるどの年齢についてです。「はろるどは赤ちゃんみたいに見えるけれど赤ちゃんじゃないよ。何歳と書いないので年齢はわからないけれどみんなと同じくらいの年齢かもしれない」と伝えます。この一言で子どもたちは違和感なくすっと物語に入ってくる感じがしています。読み始めの子どもたちが欲しいのは物語の中へ一緒に入っていく仲間なのかもしれないと思います。