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やかましむらのこどもの日

 子どもたちに本を紹介する時に、極力文字の大きさや本の厚さに触れないようにしています。勧める側が読みやすさの理由を活字組や本の作りで説明すると、子どもたちが文字の大きさなどを気にするようになり、選ぶ基準になったりするからです。けれどひとり読みを始めた時期の子どもたちにとって内容とともに活字を追いやすいことも読みすすめる原動力になることもあります。

 それを実感させてくれるのが『やかましむらのこどもの日』リンドグレーン/作 ヴィークランド/絵 偕成社 です。リンドグレーンはやかまし村を舞台に幾つも作品を書いていて日本では『やかまし村の子どもたち』『やかまし村の春・夏・秋・冬』『やかまし村はおおさわぎ』が岩波書店から1965年に出版されました。物語は家が三軒しかないやかまし村に住んでいる子どもたちの日常が子どもの目線で語られます。この物語の語り手がリーサという女の子だというのも語られる出来事が子どもたちに支持され長く読み継がれてきた理由の一つだと感じます。リンドグレーンは子ども時代、遊んで遊んで遊び暮らしたと回想しています。同じようにリンドグレーンの物語の子どもたちは、日常は楽しいことでいっぱいだと読んでいるものに感じさせてくれます。そのため内容的には読み始めの子どもたちにお勧めなのですが、岩波書店版は200ページほどとボリュームがあり勧める相手が限られます。2年生ぐらいだと手渡されても戸惑う子も多いと思います。その点『やかましむらのこどもの日』は1日の出来事に絞っているので、64ページの物語になっています。サイズ感も作りも本だと感じさせますが、絵が少なめの絵本と言っても成り立つ内容です。そして絵が主役でなく活字が主張しているのも読み始めの子どもたちにお勧めです。ページを開いた時に絵よりも字が目に入ることはこの世代の子どもたちにとって本が読めるようになったという満足感をもたらします。

 そしてやかまし村の子どもたちと知り合いになり、好ましいと思った子は、ボリュームを気にせずに岩波書店版を読めたりします。岩波書店版の方が子どもたちの様子を長い時間で切り取っているので大きな事件が起こるわけではない日常の話でも続きが読みたくなるのです。本は中身で判断するというのはこんなことの繰り返しで身につくのかもしれません。