· 

マイクマリガンとスチームショベル

 バージニア・リー・バートンの絵本は読んでもらってももちろん楽しめるのですが、自分で読んでもおもしろい作品が多いと感じています。『マイクマリガンとスチームショベル』バージニア・リー・バートン/作 童話館出版 は物語の構成と繰り返しの言葉の魅力で読み始めの子どもたちによく紹介する本です。日本では1978年に福音館書店から出版されましたが、1995年以降童話館出版から出版されています。読み継がれていく本として実力は十分なのですが買い支えることができず出版社の変更を余儀なくされた作品です。それでもこの作品を惜しむ出版社があったため辛うじて絶版を免れていますが、気を抜くと絶版になってしまうかもしれない絵本です。

 この絵本にはスチームショベルという耳慣れない重機が出てきますが、蒸気機関車のように蒸気で動くパワーショベルという説明で子どもたちはすんなり納得します。英語版は1939年に出版されていますので、その当時の子どもたちには珍しいものではなかったのだと思います。そしてスチームショベルのメアリアンと持ち主であり操縦者のマイクマリガンが新しい重機が開発され時代に取り残され翻弄されていく様を描いています。物語についていくだけで時代背景や知識がなくとも読み手を納得させてしまうバートンの力量には目を見張るものがあります。また物語前半のマイクマリガンとメアリアンがどの様に仕事をし活躍してきたのか、そして二人の信頼関係がどのようなものなのかも説明的ではないのに説得力があります。物語として楽しんでいるうちに府に落ちる作りで理論的なバートンの視点が冴えます。そして何より物語の核となるフレーズが素晴らしいのです。マイクマリガンが口にする「100人の人間が1週間かかかって掘る穴を1日で掘ってしまえる」というこのフレーズが繰り返し出てきて通奏低音のように物語を支えます。そしてこのフレーズが物語の結末に関連していて子どもたちの興味を逸らしません。

 図書館を預かっている人はぜひ『マイクマリガンとスチームショベル』が蔵書に入っているかチェックして欲しいと思います。そして状態が悪かったら買い換えてください。焼け石に水に思えるかもしれませんが個々のこういった地道な対応が絶版を阻止するのだと思います。図書館は時間を超えていく本を見守り支えサポートをしていく機関だと考えています。新しく出版されている本を購入しているのだから別に古い本は資料として保存しておけばいいというのはおとなのための本に言えることだと考えています。子どもの本は今の子どもたちに手に取ってもらうことが大事です。過去を知るための資料ではなく現役で活躍し続けるだろう本を見分け、今の子どもたちに手渡していくのも図書館の仕事だと考えています。上田子どもの本研究所は時代を超えて古びないものを見極める目利きを目指したいと思っています。