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もりのおばあさん

 『もりのおばあさん』ヒュー・ロフティング/ 文 横山 隆一/ 絵 岩波書店 は岩波子どもの本の一冊として1954年に出版されました。ヒュー・ロフティングはドリトル先生の作者として有名ですが『もりのおばあさん』もおばあさんと暮らしている動物が個性豊かでとても魅力的な作品です。

 表題の「もりのおばあさん」ことタッブスおばあさんは犬のピーター・パンク、アヒルのポリー・ポンク、豚のパトリック・ピンクと暮らしています。ところが長年住みなれた小さな家を追い出されてしまい、なんとかおばあさんを助けようと動物たちが知恵を絞ります。タイトルはおばあさんですが実質的な主人公は3匹の動物たちで、物語は3匹とそれを助ける他の動物たちの活躍で進みます。動物たちの奮闘に物語の展開から目が離せなくなります。挿絵はフクちゃんで有名な漫画家の横山さんで、写実的に書き込まない絵が動物たちの活躍を軽やかに表現していきます。絵本というよりあくまで読み物で、自分で読む満足感があるので読み始めの子どもたちにお勧めの本です。残念ながら品切れなのですが、内容的には古びることなく今の子どもたちをも楽しませてくれます。ただ一点、この本が出版された時代には問題にならなかった言葉が混じって今読むと気になる人がいるかもしれません。例えば『もりのおばあさん』だと「うすのろ」という言葉が出てきます。けれどこういった単語一つで弾いてしまうには惜しい物語だと思います。言葉は時代を写すので難しいところですが、時代に合わせて言葉を変えていくことが正解とはいえない気もします。言葉の選択に厳しい時代をどう乗り越えていくのかも背負うことになっていて時代を超えることの難しさを感じています。

 そして岩波子どもの本は石井桃子さんが創刊に関わっています。石井さんは日本でもアメリカやヨーロッパのように二十年三十年と読まれ次の世代にもちゃんと受け継がれる絵本や児童読物の出版を願った人です。売れなければ、普及しなければ、読み継がれ生き永らえなければ、絵本も児童読物も世に問う意味がないと考えて生まれたのが岩波子どもの本なのです。本当に古びす読み継がれる本が選ばれていると感じています。岩波子どもの本を持ってしても常時買うことができる本ばかりでなくなっていることに危機感を覚えます。品切れであって絶版でないことが希望です。再版になった時を狙って買い換えることで、図書館だったらいつでも読めるという状態を守れるといいなぁと思います。