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驚きのラインナップ その1

 岩波子どもの本のことを調べて驚きました。私がよく紹介している岩波子どもの本は岩波子どもの本が出版された初回から4回目までの配本のものにほぼ含まれていました。あまり驚いたのでここで共有したいと思います。

 

第一回配本(1953年12月)

『ちびくろ・さんぼ』ヘレン・バーナマン/文 フランク・トビアス/絵 光吉夏弥/訳

 

『ふしぎなたいこ』石井桃子/文(日本昔話)清水崑/絵

 

『ねずみとおうさま』コロマ神父/文 土方重巳/絵 石井桃子/訳

 

『みんなの世界』マンロー・リーフ/文・絵 光吉夏弥/訳

 

『スザンナのお人形  ビロードうさぎ』マージェリイ・ビアンコ/文 高野三三男/絵 石井桃子/訳

 

『山のクリスマス』ルートヴィヒ・ベーメルマンス/文・絵 光吉夏弥/訳

 

 この第一回配本の中で『ちびくろさんぼ』は黒人差別であるという抗議により1988年に絶版になり、図書館などでもその影響で廃棄されたりしました。紆余曲折の末、現在瑞雲舎から岩波版を踏襲した形で出版されるようになりました。

 『ちびくろさんぼ』の作られた経緯を見ても本当は黒人差別とは無縁の作品です。著者のイギリス人のヘレン・バーナマンは夫と共にインドに長期滞在しており、別に暮らしていた自身の子どもたちにインド人の男の子を主人公にした手作り絵本として作られたのが「ちびくろさんぼ」なのです。そして黒人差別の根拠にされる名前も、北インドやチベット地方ではよくあるものだそうです。「さんぼ」は「優秀な よい」、お母さんの「まんぼ」は「豊かな たくさんの」、お父さんの「じゃんぼ」は「大世界 やさしい」という意味だそうです。また岩波版のフランク・ドビアスが描いた絵もステレオタイプで黒人蔑視と言われますが、大胆な色使いでデザイン化されていて読者に強い印象を残していると感じます。人種差別はあってはならない問題で、この作品が世界中で愛され長く読み継がれたからこそこの様な問題に巻き込まれたのだと思います。読み継がれるだけの魅力と時代の変化との関連は簡単には解決しそうもありませんが、『ちびくろさんぼ』の物語に心躍らせた記憶は消えることはありません。他の本は今でも読むことができますし、どの作品も時代を超える作品です。すでにここで取り上げた本もありますので、ラインナップとして紹介するに留め、また個別に紹介していきたいと思います。