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物語は心の住人

 読書と一口に言っても読書には「解決策や方法論を求める読書」と「物語を楽しむ読書」があり読み方が違うと感じています。「解決策や方法論を求める読書」は答えを探していくためのものですが「物語を楽しむ読書」は答えを探さずに物語を繰り返し思い返すこと自体が楽しみの源になります。心の中に物語を住まわせて時々取り出しては物語に浸ることが醍醐味なのです。ですから何度読んでも読み飽きない物語が必要で、そういう本との出会いがないと読書のおもしろさの一つを味わうことができないと考えています。そしてこれは読んで発散して忘れていく物語の楽しさを否定するものではありません。いろいろな本を読んでいくうちに自分の中に住んで欲しい本が見つかるからです。それは誰かに教わるわけではなく自分で決めていくものです。

 加えて時代を越えていく本は、繰り返し読んでも読み飽きない魅力を備えているからこそ、時代を越えて支持され続けていきます。また子どもに支持され続けるだけでなく子ども時代に読んだ本の中にはおとなになっても大切に住まわせ続けている物語も存在します。心に住み続けていた本を実際読み返してみると今でも心惹かれる物語であることに驚くことがあります。その当時その物語の何に心惹かれどうして繰り返して読んだのかまでが、おとなになると説明がついたりしますが、子ども時代を懐かしむような郷愁ではなく子どもでなくなってもその物語は自分の芯になっている部分に響くものだと感じています。言い換えれば自分を形作るのに必要としていた物語だからこそ繰り返し読み心に住み続けたのだと思います。

 この心に住み続ける物語と出会うことが子ども時代の読書の目的だと考えています。どの本が誰の心に住むのかはわかりません。そしてそれは公表しないからこそ価値があるのだと思います。借り暮らしをしている床下の小人たちが人の目につかないことも信条に生活していた様に、目に見えないことや口に出さないことが育むものというのは、確かにあると考えています。そしてこういった感覚も子ども時代の読書が育みます。このデリケートで個人的な育ちを支える役割は重いですが、図書館や子どもの本に関わる者は確かな本選びで子どもたちを応援できるといいなぁと思っています。