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たんたのたんてい

 『たんたのたんてい』中川李枝子/作 山脇百合子/絵 学研 は、学研の新しい日本の幼年童話というシリーズで出版された本です。シリーズといっても出版のタイミングに規則性はないようで、読み手の年齢を意識して作られたシリーズといった印象です。

 この『たんたのたんてい』は1975年に出版されましたが、今も読み始めの子どもに紹介して喜ばれている本です。主人公は5歳の男の子たんの たんた。 たんたは毎朝庭にある郵便受けから新聞を取り出してお父さんのところまで持っていくのを「新聞配達」と称して日課にしています。ある朝いつものように新聞をとりにいったら新聞がなくて、出てきたのは見たこともないでこぼこのチューブ。表面に字が書いてあるけれど消えかけている文字もあって読み取れたのは「に‥じ‥は‥がき」という文字だけ。新聞の代わりに入っていたチューブを手がかりにたんたくんは新聞を探すのですが、謎はますます深まってという話です。子どもの心の動きや行動を余すところなく生き生きと書くことにかけて定評がある中川さんの作品です。たんたの謎解きは無理がなく子どもたちの目線に沿っているので子どもたちを納得させぐんぐん物語に引き込んでいきます。ひとり読みを始めた子どもたちに主人公が5歳では内容が幼いのではと思うかもしれませんが生き生きとしたたんたの行動に子どもたちは共感していきます。自分で考えて行動を起こすという遊びの原点を抑えているので年齢を問わないのではないかと考えています。どちらかというとルールありきのゲームなどに早くから親しんでいる今の子どもたちはたんたのような遊びが足りていないので、逆に新鮮なのかもしれません。

 また『たんたのたんてい』は1971年に出版された『たんたのたんけん』の続刊なのですが、紹介する時には『たんたのたんてい』を使うことが多いです。『たんたのたんけん』はお誕生日に届いた手書きの地図を持って探検に行くという話でこれも楽しい内容なのですが、知らない人から届いた地図を持って知らない場所へ行くという設定が、今の子どもたちにとって禁止事項を破るという印象を持たれやすく、最初の段階で物語に入りにくそうな子が出ます。特に『たんたのたんてい』では気にする子が少ない主人公が5歳だという点が『たんたのたんけん』では5歳だからこんなことをしてしまうというマイナスな印象に働くようです。読み慣れて物語を楽しみだすと、こういった設定は物語だからと疑問に思わなくなりますが、読み始めの子どもを、ぽんっと物語の中に飛び込ませるにはブレーキになると感じています。身を守るためとはいえ、この物語が書かれた時代より今は子どもが自由に外で遊ぶことのハードルが高くなっているのだと思います。けれどそれを差し引いても物語として楽しめる内容です。