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のばら村のものがたり

 のばら村のものがたりは、のばら村の住人であるねずみたちの生活をそれぞれの物語によって主人公を変えながら全8話、8冊書かれています。その中でも最初の4話をよく子どもたちに紹介しています。『春のピクニック』『小川のほとりで』『木の実のなるころ』『冬の日のパーティー』の4冊です。ジル・バークレムはイギリスの作家で作品はこの『のばら村のものがたり』シリーズだけです。けれどその魅力的な絵と物語の世界観は瞬く間に世界中で支持され広く翻訳出版されている作品です。幅広い年齢層を虜にしたためか『のばら村 四季物語』として4つの話を一冊にまとめた上にジル・バークレムのインタビューを収録したものや、『愛蔵版のばらの村のものがたり』として全8話をまとめたものなどが出版されています。そしてアニメーション化もされたのでアニメ版も出ています。愛されるがゆえの多様化ですが子どもに紹介するにはタイトルだけではわかりにくいのが残念です。

 そんな中で私が紹介している版は『のばら村のものがたり(1)春のピクニック』ジル・バークレム/作 岸田衿子/役 講談社 です。これは1981年に日本で翻訳出版されました。豊かな自然と大きな木を生かしたまま中身をくり抜いて作られたねずみたちの家に子どもたちは釘付けになります。子どもが描く秘密基地の絵をおとなが確かな画力で再現した様な魅力的な住処なのです。家具や調度品も凝りに凝って何ひとつお座なりに描かれたものはありません。まるで精巧なドールハウスを見る様です。そしてねずみたちは姿がねずみなだけでまるで人の様な装いでボタンやリボンまでこだわっていてそれがまた違和感を感じさせません。物語もほっこりとする内容ですが、この絵なしにはのばら村は成立しないと思わせる画力と世界観です。自分で読むならこの講談社版のB6変形のサイズ感が内容とぴったりでおすすめなのですが、紹介する時には少しでも絵が見える様にB5変形の『のばら村 四季物語』ジル・バークレム/著 岸田衿子/訳 講談社を使うこともあります。この場合作者のインタビューが最初に入っているのでそこを飛ばして物語だけ読んでねという説明が必要です。

 そしてのばら村は今の時代の出版の中で翻弄されている作品の一つだと思います。1980年代というバブル経済期に世に出たため、子どもたちに支持されてロングセラーとして細く長く生きていくことができなかったのだと感じています。アニメ化もぬいぐるみ等のキャラクターの商品化もロングセラーになってからではなく、作品の発表と共に次々と展開された印象です。機が熟すのを待てなかったために十分その力があるのに本自体が支持される時間を失ったのではないかと思います。そのためか何度も絶版の危機に見舞われています。講談社でも1981年版の品切れの時期を挟んで新装版として1996年に出版し直しています。それも現在では品切れで手に入りません。そんな中現在は出版社と訳者を変えて新しくのばら村が出版されました。まだ現物を読んでいないので中身について触れるのは控えますが、どちらにせよのばら村が探しにくくなったのは否めません。出版される時代に運不運があるのだと思ってしまいました。