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とりかえっこちびぞう

 『とりかえっこちびぞう』工藤直子/作 広瀬弦/絵 学研 は読み始めの子どもたちが文字を追うことに力を取られすぎずに楽しむことができ、内容的にも好き嫌いが分かれないタイプなのでよく紹介している本です。詩人の工藤直子さんが文章を手掛けていることが、この軽やかで意外性に富んだ物語を作り上げているのだと感じています。

 主人公は「ちびぞう」という子どものぞうです。ちびぞうはいつも「なにか」をしています。物語も「なにか」をしようと散歩に出かける話なのですが、出かける際ちびぞうがお母さんに「いってきます」と挨拶したらお母さんが「なにかによろしくね」と返すほどです。こういった視点が工藤さんらしくて魅力的なのとネーミングが音としても心地よく読み手の読みやすさを支えています。そしてちびぞうは散歩で出会った動物が持っているたてがみや尻尾などいいなあと思ったものと自分の耳や尻尾をとりかえっこをしていく話です。そんなものとりかえられるのという子どもたちの「えー」という非難の声が上がりますが、そんな固定観念を吹き飛ばすほどあっさりと簡単にとりかえっこが行われ、とりかえっこをした動物の姿の絵のインパクトに子どもたちはすっかり物語に巻き込まれていきます。この物語の世界へ易々とさらっていく感じは紹介していていつも感心します。そしてとりかえっこを続けていくちびぞうはどんどん姿が変わっていき、変化を名前を変えていくことで表現していきます。最初にライオンのたてがみと自分の耳をとりかえっこしたので「ちびそう」から「らいぞう」に、次にしまうまと尻尾をとりかえっこしたので「らいぞう」から「らいしまぞう」にと、どうネーミングされていくのかから目が離せなくなっていきます。そして新しい名前をちびぞうが歌いながら唱えるリズミカルな言葉の羅列は楽しい気持ちを持続させてくれます。

 読み始めの子どもたちに愛用しているこの『とりかえっこちびぞう』は1993年に出版され、現在は品切れ状態です。これだけの本でも品切れになるのです。本はたくさんあっても玉石混交すぎると思っています。ここをどう乗り越えるかが時代に評価される本を生み出せるかなのだと感じています。図書館では新刊で出版された際に購入しても、その後の蔵書の見極めをせずに古びても買い換えるということをしない傾向が強いので品切れになっていくのではないかと考えています。子どもの本はロングセラーとなることが大事なのだという感覚を図書館と出版社が共有できると変わっていけるのではないかと期待しています。