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詩の力

 「本はともだち」事業では、詩の本を必ず紹介しています。子どもたちには紹介するときは詩という言い方で伝えずに、声に出して読むとおもしろい本という言い方で紹介しています。「本はともだち」事業が対象を主に小学2年生にしていることもあり、詩の本といっても厳密には詩といえないタイプの絵本なども使うからです。

 日本の学校教育では詩を短文として扱い、自分の気持ちを書き表すことに使われることがあります。特に文章を書き始めた子どもたちにあのねで始めると書き出しやすいという指導がされたりし気持ちを表現できることが推奨されます。そのため技巧を使わないで自分の言葉で気持ちや場面を切り取ることになり、詩の様な味わいのある文章が生まれるのだと思います。そのためこの世代の詩は詩を作ろうとして書いたものではなくおとなの目で詩として認められている部分があると感じています。 

 それに対して詩人の詩は平易な言葉で書かれていても選び抜かれた言葉が連なり、意図したものが意図した形で表現されたものです。こういったものに触れることは言葉の感覚を高めるので読み始めの子どもたちにも親しんで欲しいものです。そして詩は音と深いつながりがあり、黙読では味わえない言葉の奥深さを感じさせてくれます。この耳からも楽しんで立体的に言葉に親しむことは、言葉の習得にとって非常に重要で言葉のセンスを高める土台になります。イギリスの児童文学を読んでいると詩の暗誦が日常的に行われ、子どもたちが宿題で詩の暗誦に取り組んでいる様子がよく出てきます。言葉を自在に使える様になるには必要なことなのだと考えられていることが伺えますし、私も子どもたちに紹介していていて手応えを感じています。

 日本ではどちらかというと自分で書くことが詩との出会いの始まりになっている様な気がします。そして詩人と呼ばれる人たちの詩に親しむのはヤングアダルト世代以降だと思われている節があります。けれど言葉の習得と並行して詩人の詩に親しむことが重要だと考えています。おとなになると大ごとになる暗誦も子どもたちは軽々とこなしていきます。この柔らかで伸びしろの塊の世代が詩に親しまないことはもったいないことだと考えています。