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小さなスプーンおばさん

 『小さなスプーンおばさん』アルフ・プリョイセン/作 ビョーン・ベルイ/絵 大塚 勇三/訳 学研 は、本の見た目に反して読み始めの子どもたちにお勧めの本です。本の厚さや文字の大きさといった見た目で読みやすさを判断する子どもたちが手にしないのがもったいないと思っている作品です。主人公は自分の意志とは関係なく突然ティースプーンくらいの大きさになりまた突然本来の大きさになるおばさんです。その突発的な体の変化をものともせずに知恵を絞ってやらなければならないことをやってのけるおばさんのたくましさとおおらかさは読むものを魅了します。突然小さくなってしまうことで降りかかる問題を子どもたちは体感的に理解できるようで納得しながら物語の展開を楽しみます。そしておばさんが繰り出す解決策に時には笑い、時には感心しながらおばさんのやることから目が離せない感じになります。

 この本は見た目では文章量が多く見えますが1話完結の短いお話で構成されているので、見た目ほど読みにくい本ではありません。こういった短いお話で構成されている本は読み始めの子どもたちにとって読みやすいものです。読むのが苦手でも1話ずつ楽しめるので無理せず読書が楽しめます。そして1話あたりの文章量は物にもよりますが絵本とさほど変わりません。読み進めるにあたって絵の助けが欲しくて絵本を選んでいる段階から絵の助けをさほど必要と感じなくなってきた時にこういった作りの本は最適です。そしてこの本の1話目に入っている「スプーンおばさん小さくなる」は語りのテキストとして使われるものでストーリーテリングでも楽しむことがあります。そのため主人公の動きがイメージしやすく物語の中の動きが想像しやすいので子どもたちが物語に入りやすい作品です。読み始めの子どもたちは文字が大きくて薄い本が読みやすいと思いがちですが、そんな先入観を軽やかに覆してくれる本です。ただ残念なことにアニメ化されているので読まなくても内容を知っているという子どもたちもいます。けれど自分で読んだ方が楽しいという言葉と共に内容を伝えると意外に読んでみようと思うようです。ストーリーテリングに向く物語は言葉で語ることで魅力が発揮される部分があるので、この物語も言葉だけの方がより魅力が引き立つのだと思います。