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時代を超える

 子どもの本の評価をする時に「読み継がれていく本」という視点で本を見るように学び、本を見てきました。この価値基準で子どもの本の世界を見てきてざっと40年ほどになりますが、この基準はわかりやすいようで単純には使えない部分があると思うようになりました。読み継がれていくにはその本が子どもの手に届くところにあり続けることが大前提だからです。あり続け他の本と競った上で読み続けられて初めて支持されたということになります。

 あり続けるには出版し続けられなければなりませんが、それには売れ続けなければなりません。子どもの本はベストセラーよりロングセラーをというのはその本が売れ続けるということでもあります。実際子どもの本のロングセラーの代表格の『ぐりとぐら』なかがわりえこ/作 おおむらゆりこ/絵 福音館書店 や『いないいないばあ』松谷みよ子/作 瀬川康男/絵 童心社 は今も売れています。そして子どもの本に対するロングセラーという考え方は戦後アメリカなどから入ってきた考え方です。その考え方を基にして図書館員だけでなく編集者も作家も一丸となってどれほどの志を持ち子どもに本を手渡そうとしていたのかは『児童文学の旅』石井桃子/著 岩波書店 を読むとわかります。読み継がれていく本を子どもたちに渡したいという思いを持ち連携することによって子どもの本の世界が豊かになることは間違いないと思います。

 読み継がれて欲しいと思った時に問題になるのは子どもの本の買い手の問題です。おとなの本は買い手と読み手が同じです。けれど子どもの本は買い手と読み手が違います。売れるには買い手を巻き込む必要があります。そして子どもに本を買い与えるのは多くは親です。親世代の購買意欲は子育てと直結しているので買い与えることで子どもに何らかの効果を期待し本に即効性を求めがちです。残念なことに本はそれ一冊で目に見える効果が生まれるものではありませんし、本を選ぶには読んだ経験がものをいいます。経験値が個々違う上に子どもに本を買い与える際に親が読んでから買うのは現実的ではありません。そのため選ぶこと自体が難しいのだと考えています。

 そこで期待されるのが子どもの本を読んだ経験値が高い人の判断です。子ども時代に読んだ経験があり読み続けている人だけでなく、子ども時代の経験があまりなくともおとなになってからでも数を読んでいる人は強いと思います。おとなになってから読む人は読み継がれてきた本を選んでまとめて読むことができ系統立てて効率よく子どもの本の全体像を掴むことができます。その時の注意点は親世代目線ではなく物語自体を捉えることです。物語として楽しめるのかという視点で読むことが大事です。読み継がれる本を見極めることで子どもたちの読書環境を整えることはアメリカのように公共図書館が担って欲しいと長年願ってきました。けれど専門職を置くことができないどころか正規職員が減っている現状では叶いそうもありません。ただこの役割なしでは「読み継がれる本」自体が消滅しかねません。仕事として成立できる確信はありませんがそれでも子どもの本を見極めることを始めたいと思っています。