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ものぐさトミー

 『ものぐさトミー』ペーン・デュボア/作 松岡享子/訳 岩波書店 を紹介するとまず主人公のトミー・ナマケンボという名前に子どもたちは興味を惹かれ、きゅっと集中しだします。物語を読んでいけばこの名字がいかに主人公にぴったりかわかるので特に説明はしません。タイトルの「ものぐさ」や怠け者をもじった「ナマケンボ」といった言葉の説明が物語についていきやすくし理解を深めると思われるかもしれませんが、子どもたちが楽しんで読むために大事なのは言葉の意味を知っていることではないと紹介していて思います。自動化された家に住んでいるトミーの生活が語られるのですが、物語の展開についていけば自ずと言葉の意味がわかり読んだ子どもたちは言葉が分からなくて困ることはありません。またこの作品は1977年に出版され現在は当時より生活する上で自動化自体は珍しいことではなくなってきていますが、それでもこの作品は古びず今も子どもたちを楽しませてくれています。トミーの生活は、起きる、お風呂に入る、歯を磨く、服を着るといった基本的な生活習慣はもちろん食事をすることまで全部機械がしてくれるといった、子どもから見ても羨ましいのか羨ましくないのか悩ましい状況だからかもしれません。機械が未来的なものではなく子どもの工作のような身近で見慣れたものを組み合わせた感じなことと、トミーの表情が楽しそうではないことも物語の展開を予感させます。子どもたちに紹介していてもトミーの生活を羨ましがる声も出ますがとにかく全て機械にやってもらっていることに驚いている感じでこれで大丈夫なのかと心配をする声も出ます。そして心配した通りに停電で機械が不調になりという物語の展開は読み始めの子どもたちを難なく物語に引き込んでいきます。岩波こどもの本なのでサイズが小さいですが絵と文章のバランスがいいので読み聞かせに使う方もいらっしゃいます。でも自分で読む本として紹介した方がこの本の魅力が発揮されると思います。読み聞かせではトミーの表情は聞き手に伝わらずもったいないと感じます。またこのサイズだからこそ読みはじめの子どもたちにとって読みやすく絵が読むことの応援をしてくれます。そしてこのタイプの物語は1つ間違うと教訓的な話として扱ってしまいがちです。良かれと思ってうっかり「怠け者はダメだよね」といった解釈をすると言葉で発しなくても物語のおもしろさが吹き飛びます。自分で読むための本として出会って欲しい本だと思います。