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ごきげんならいおん

 『ごきげんならいおん』ルイーズ・ファティオ/作 ロジャー・デュボアザン/絵 福音館書店 は絵本として読み聞かせで楽しむこともありますが、読み始めの子どもたちが楽しんで読む絵本です。

 主人公はフランスの公園の中にある動物園に住んでいるらいおんです。このらいおんは動物園の飼育係の息子のフランソワを筆頭にらいおんの家の前を通る人たちがいつもらいおんに挨拶してくれて声をかけてもらえることを喜び満足して暮らしていました。ところがある日いつも鍵がかかっているらいおんの家の戸が開いていたので、たまには自分から顔見知りの人たちに挨拶しにいってみようと思い立ったというのが物語の始まりです。らいおんとしては、いつもどおりに丁寧に挨拶しているのに顔見知りの人たちの反応は気絶してみたり大声を上げて逃げていったりといつものものではないことにらいおんは首を傾げます。読み聞かせで楽しむ世代は「いつもはお行儀の良い人たちなのにどうしたのだろう」というらいおんの邪心のない素直な疑問に共感していくのですが、読み始めの世代ともなると顔見知りの人たちの態度がもっともなものだと思えます。自分が街でらいおんに出会ったらという想像ができるからです。そのためらいおんの善意が理解されずに理不尽な出来事に向かっていくことが予想できハラハラしながら物語の展開を追います。主人公に寄り添い一体化した視点でも楽しめ、出来事を中心に捉え主人公を客観的に観察する視点でも楽しめるためこの絵本は幅広い世代が楽しむのだと思います。そして自分に置き換えて考えてみることが自然にできるような作りのため読書世代にとって受け身でない読書の一面を知る入り口になります。そしてデュボアザンの絵は、どこかユーモアをはらんでいて出来事を深刻にせず軽やかに伝え、らいおんの表情はらいおんでありながら人間臭さを感じさせ物語にぴったりです。物語と絵は一体化し切り離すことができないとさえ思います。ですからこの作品は手元でじっくり絵を見ながら楽しんで欲しいと思います。読み聞かせで内容を知っていたとしても自分で読むことの楽しさを教えてくれる作品です。