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きこりとおおかみ

 『きこりとおおかみ』山口 智子 /再話  堀内 誠一 /画 福音館書店 は 1977年に「こどものとも」のシリーズで出版された絵本です。残念ながら現在品切れですが図書館で手に取ることができるので「本はともだち」で読み始めの子どもたちに紹介しています。この物語はフランスの民話なのですが。堀内誠一さんの絵が物語の推進力になっています。

 森の中で食べ物を探していたおおかみが入り口のドアが開いていたきこりの家に入り込みます。けれどその家に住んでいるきこりの夫婦はふたりでスープを作っている真っ最中。おおかみが入り込んだことに気がつきません。おおかみはスープを作っているふたりの近くまで行くと座り込み、スープときこりとおかみさんどれから食べようか悩み出します。そこまでいってようやくきこり夫婦がおおかみに気がついてというところから物語が動き出します。こうやって文章で説明してもさあどうなるのだろうという気持ちになる物語ですが、堀内さんの絵はこの絶体絶命の場面を余すところなく絵にしています。ストーリーテリングとしてイメージを固めるならまさにこの構図だろうというドンピシャな絵なのですが、自分が語ったとしてこの構図が思いつけたかというとできなかったかもしれないと思います。

 この作品における堀内さんの絵の素晴らしさは躍動感あふれる軽妙なタッチと物語を絵として切り取る能力の高さにあると感じています。そしてこの物語はおおかみに食べられそうになる場面の後もう一山あるのですが、その場面の絵が饒舌に語ることといったら、この物語はこの絵本で読むのが一番映えると思わせるものです。昔話は絵本にすることでその良さが出ないことがあります。けれど『きこりとおおかみ』は堀内さんが絵にすることで物語の魅力を倍増させているといっても過言ではないと感じています。この堀内さんの絵に引っ張られて読み始めの子どもたちは物語の中に入り込み物語の展開を知りたくて読み進めていきます。そしてきこり夫婦がおおかみに食べられてしまったかどうかではなくもう一山あることで物語の先が予想できないことも自分で読む本としてふさわしいと感じています。本は次々出版されていますが、代わりのきかない本というのはあると感じています。こういった作品を手に取ることができる環境をどうしたら守れるのかを考え続けています。