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声に出してこそ

 昨日「本はともだち』事業で子どもたちに『ちちんぷいぷい』川崎 洋・木坂 涼/編 杉田 比呂美/画 岩崎書店を紹介しました。この本は遊び歌、数え歌、はやしことば、掛け声、挨拶など暮らしの中で受け継がれてきた言葉と、金太郎とか牛若丸といったお話し歌、かえ歌、声で読んで楽しい詩を、詩人の川崎 洋さん木坂 涼さんが選びまとめられた本です。今ではあまり使わないものも入っていますが私の世代だと自分の子ども時代を思い出させてくれるようなラインナップです。

 例えばはやし言葉の「いーけないんだいけないんだ せーんせいにいってやろ」などは私の子どもの頃はしょっちゅう聞いていたような気がしますが、最近の子どもたちは使っていないような気がします。こういったはやし言葉は節をつけて唱えることで場の緊張感を緩めていたのだと今思います。怒りや相手に仕返ししたい衝動は誰にもありますがはやし言葉を唱えることで我にかえる間ができます。はやし言葉は反射的に出るものなので、知らないうちに衝動を抑えるトレーニングをみんなでしていたのかもしれません。理屈ではなく折り合いをつける手段として私たちが伝承してきた知恵だと今思います。

 また替え歌は無条件におもしろいので今の子どもたちも苦もなく覚えてしまいます。語彙を増やすというのはこんな遊びに支えられている部分もあって学習だけで身につけてきたものではないと感じています。取り上げられているのは「パブリック讃歌」や「どんぐりころころ」といった子どもたちもすぐに歌えるものから「ブルーシャトー」といった多分私の世代しか知らないようなピンポイントの替え歌が入っています。読んでくださっている人も歌える人と歌えない人と分かれる選曲かと思いますが、この本を手に取ったときブルーシャトーの替え歌がすらすらと歌えて自分が子ども時代に結構歌ったのだと笑ってしまいました。そして一緒に歌った幼馴染みの顔まで浮かんで子ども時代の遊びの威力を感じています。

 取り上げられている詩も声に出して活きる作品揃いですが中でも谷川俊太郎さんの「わるくち」は今の子どもたちに渡したい作品です。言葉に対しての責任が以前より重いのでおとなでも言葉の選択に神経を使います。そして口にするのに躊躇する言葉が増えていると感じています。けれど言葉に対する責任は比較する表現を知っていてこそ意味があると思います。ところが相手が嫌がることは言ってはいけないというルールのもと、子どもたちは禁忌の言葉というカテゴリーで言葉を教えられ口にすること自体が罪だと教えられているように見受けられます。もちろん相手を傷つける言葉を意図的に使うことは罪だと思います。けれど使ってみないことにはその言葉の良し悪しが身につくとは思えません。そんな今「わるくち」は使ってはいけないといわれている言葉を自在に繰り出して悪口が言葉遊びになっていく過程を感じさせてくれます。読んでいると子ども時代友達と喧嘩して相手にダメージを与えようとして次々と悪口を繰り出しているうちに何がなんだか分からなくなってしまったという経験を思い出させてくれます。言葉は禁止だけではコントロールできない生き物のような存在なのだと改めて思います。