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へんてこもりにいこうよ

 『へんてこもりにいこうよ』たかどの ほうこ/作・絵 偕成社 は「本はともだち」事業を立ち上げた時から子どもたちに紹介している本です。まだ「本はともだち」の骨格が固まる前の本当に初期の頃に初めてこの本を紹介しました。事業を受け入れてくれたモデル校に実験的に入っていた頃なので、紹介した相手は5年生でした。担任の先生が読書指導にとても熱心なクラスで、なかなか本を読まない子どもたちにも本を読んで欲しいという要望をもらっていました。その当時は高学年になると急に本を手に取る子と取らない子に分かれてしまっていて、クラス単位の本の紹介では読まない子に本を勧めるのは難しいかもしれないと私も思っていました。そこで思い切って読み始めの子どもたちに紹介するような本を混ぜることにし、その一冊が「へんてこもりにいこうよ』でした。

 ただ私もヘンテ・コスタさんがつくったへんてこもりへ、そらいろ幼稚園の仲良し四人組が遊びにいって動物しりとりをするというこのお話を紹介して、子どもに受け入れてもらえるのか自信はありませんでした。ところが本を紹介し授業時間が終わった途端、6人ぐらいの男子が車座になって床へ座り込み『へんてこもりにいこうよ』を真ん中に置いてみんなで読み始めたのです。それぞれ読むスピードが違うのでページに手をかけている子はページをめくっていいかみんなに確かめながら読み進んでいきます。先がどうなるのかよっぽど気になったようで読みにくさなど物ともせずにみんなで読んでいく様子に驚かされました。読み出した男子は本を読まないと思われていた子たちで休み時間は真っ先に外へ遊びに行くタイプの子どもたちだったということもあり、本の力を確信した出来事でした。

 『へんてこもりにいこうよ』は登場人物こそ幼稚園児ですが、しりとりという年齢を問わない遊びが物語の中で繰り広げられます。「ま」の字から始まる動物がどうしても思い浮かばずに苦し紛れに「まるぼ」といってしまうブンタくんの気持ちは年齢に関係なく共感できることもあり5年生が物語の中にすんなり入れたのだと思います。そして何より架空の動物「まるぼ」のインパクトの強さです。読み手にあり得ないという言葉を飲み込ませてしまう視覚に訴える絵と説得力です。「まるぼ」が動物かどうかを確認する「まるぼ」と四人組の子どもたちのやり取りは何度読んでも笑ってしまう場面です。この突き抜けた発想は作者のたかどのさんの持ち味で、あっという間に物語の世界へ運んでくれます。この有無を言わせない説得力が5年生をも虜にしたと感じています。この本は1995年が初版ですが今も古びずに子どもたちを楽しませてくれています。そしてこういった本に出会うと何歳向けといった括りだけでは測れない物語の底力を感じます。