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それ ほんとう?

 『それ ほんとう?』松岡 享子/作 長 新太/絵 福音館書店 は「あ」から始まる言葉だけで作ったお話から「わ」から始まる言葉だけで作ったお話まで、どれもあれっと思わせるナンセンスで短くて声に出して読みたくなる本です。そして思わずそれほんとう?と言いたくなるような展開と、これだけ言葉の縛りがあってもちゃんとお話になっていておもしろがらせることができる松岡さんの言葉の力に惚れ惚れします。

 この本は1973年に初版が出版されましたが2010年にページレイアウトなども一新し、ひと周り大きさも大きくなった新装幀版が現在手に入ります。ハードカバーで小ぶりで手に馴染みの良い初版のバージョンが個人的には好きです。表紙のイラストも変わって見た目が同じ本とは思えない感じですが不思議とページ数は変わっていません。福音館書店のサイトでは幼年童話に分類されていますが、私は詩の本として子どもたちに紹介しています。声に出して読んだ方がおもしろいと感じているからです。

 この作品はこれだけの言葉が使われているにもかかわらず、全てひらがなで書かれています。カタカナすら使われておらずそれが独特の雰囲気を作り出しています。また改行も独特で文頭がタイトルの文字が並ぶような表記になっています。例えば「あ」なら文頭ができるだけあになるように工夫されているのだと思います。そのため末尾の位置がまちまちで空白ができ、それも詩を感じさせるのだと思います。

 ただ全てひらがなのためおとなでも意味がとりにくいことがあります。そして意味が取れないまま読むと余計なんのことかわかりません。まるでおまじないを唱えるような感じになります。詩として言葉と遊ぶならそんな読み方でも楽しいと思います。けれどおとなが読んでみせる時には意味がちゃんと取れていることが必要かと思います。言葉とイメージを一致させておく感じです。そしてこれはストーリーテリングの手法でイメージを固めるという作業と同じです。作者の松岡さんが名だたるストーリーテラーであることがこの作品の根底にあると感じています。