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ちいさいおうち

 『ちいさいおうち』バージニア・リー・バートン/文・絵 石井 桃子/訳 岩波書店 は1954年に岩波子どもの本で出版されました。『ちいさいおうち』は岩波子どもの本で出版されるにあたって原作と開きを逆にし縦書きの絵本として出版されました。そのため元版といわれる縦書きのバージョンと改版として1981年に出版された横書きのバージョン、そして原作と同じサイズで1965年に出版されたものがあります。現在は岩波子どもの本の横書きバージョンのものと原作と同じサイズのものが手に入ります。そして訳も大型絵本は2001年に石井さんが訳文を見直して改訳決定版となりその時に「岩波子どもの本」と訳文をそろえたという経緯があるのでどの版で読んだのかで微妙に訳が変わるという複雑なことになっています。

 「本はともだち」では『ちいさいおうち』を自分で読む本として読み始めの子どもたちに勧めています。子ども時代に読んでもらった記憶のある方も多いであろうこの本をあえて自分で読む本として紹介するのは、ページを行きつ戻りつする楽しみがあると感じるからです。この作品では丘の上のちいさいおうちを同じアングルで描いていきます。同じアングルのため昼と夜、季節、開発といった時間の流れが、ちいさいおうちを中心にした周りの風景の変化によって生き生きと描かれます。例えば丘にはりんごの木が描かれていますが季節が変わると木の葉が茂り色づきりんごの実が赤くなっていきます。馬車は冬になると馬そりになり時代が進むと自動車になっていきます。こういった変化は風景として捉えることも可能ですが定点で追いかけることも可能な作りになっています。気にならなかったらそのまま読んでも十分楽しめますが気になったら戻って確かめる楽しみがあるのです。それは絵をじっくり見る楽しみや何度も同じお話を読む楽しみを教えてくれるものだと思います。

 私は子ども時代に縦書きの岩波子どもの本で『ちいさいおうち』を楽しんだので、岩波子どもの本のバージョンが好きなのですが、横書きの岩波子どもの本だったら、大型の方が伸び伸びした感じがして絵が活きる気がしています。原作のサイズで、よりその魅力が発揮されるのはバートンがテキスタルデザイナーであったことが一因かもしれません。