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変化ばかりに目を凝らさずに

 子どもたちと本という一点だけで付き合っていると、子どもたちの言動や興味の対象そして読書傾向などの変化に目を奪われがちです。同じ年齢の子どもたちが以前どうだったかという比較が容易な上、その違いがまず違和感として感じられるからです。そしてどう変わってきたのかを聞かれることも多いです。けれどよく考えてみると変わっていない部分の方が多いと思います。時代の移り変わりと共に生活習慣が変わっても人が大人になっていく過程はさほど変化しないと思います。人の子は相変わらず首も座らない状態で生まれますし、生まれた時の体重も身長も個人差はあるにせよ平均値が大きく変わった訳ではありません。その後の成長も環境が変わったからといって以前より早く言葉を習得する訳でもなく第一次成長 第二次成長の時期が変わった訳でもありません。以前にはなかった機器が日常的に使われるようになったりするので子どもが使っていることが目新しく驚きを持って語られたりしますが、多分どの時代でも同じことが繰り返されている気がします。そして新しい機器が使えるようになった分、上の世代ができることができなくなっていたりするので人間として特に進化したとは言えないような気がしています。

 ですから変化に注目するのではなく、変わらないものに注目することが大事だと考えています。多分人が成長していくのに必要なことやものは大きく変わっていないと思うからです。それは昔に帰れということではなく、必要なもののエッセンスをちゃんと捉えることだと考えています。エッセンスさえ抽出できれば、時代に合わせてその必要なものを子どもたちに渡せるからです。人は生まれた時代の影響を受けるものです。けれど人として生きることには変わりません。時代の影響を受けるからといって必要なものが変わる訳ではないと考えています。そしておとなは自分ができることは生活しているだけで身についたような錯覚に陥りがちです。ですから自分ができていることは子どもが既にできていることとして、自分ができない新しいことを教えようとする傾向があります。小学校での英語教育然り、プログラミング然りです。現在の生活は国を超えた社会で支えられているので共通言語として英語は必要でしょうし、機器の進化や生活への浸透度合いを考えればプログラミングの知識も大切だと思います。けれどそれは言葉や想像力そして思考力といった人が培ってきた基本的な能力なしに身につくものではありません。

 読書は今も昔もこういった人としての基本的な能力を培うことに力を発揮してきました。読書を情報収集の手法の一つと捉えるので古びたと思われがちですが、読書は人が生活していく上で基本的な力を育んでいることを忘れないようにしたいと考えています。