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物語を物語として楽しむ

 物語の楽しさは理屈ではないところがあります。おもしろさを言葉で説明しようとすると伝えきれないもどかしさや言葉にするごとにこぼれ落ちているものがあると感じ無力感を覚えることも多々あります。定義しようとすること自体を拒むような広がりが物語にはあると思います。それは物語は人の中から生まれ出て人によって生かされているからだと考えています。そして同じ物語を好ましいと思っているもの同士でも究極のところぴったり同じ感じ方をしているわけではないところが物語の魅力でもあるのだと思います。

 そもそも人の感じ方は比較することが容易ではありません。例えば見え方なども視力として測って比べることはできても記号を見分けてもその線の太さや明瞭さ加減など具体的な見え方は比較できません。聞こえ方も聞こえているかどうかは確かめることができてもどう聞こえているかは具体的に共有しているわけではありません。

 物語を物語として楽しむ経験が必要だと考えるのは、おもしろかったと感じたこととそれを言葉で説明できることは別物だと考えているからです。説明できるには理由をつける必要があり物語を客観的に判断できるだけの分析する力が必要です。どうおもしろいのか分析できることも大事ですが、それ以前に物語自体を楽しむこともまた大事だと考えています。そのためには物語にたっぷり親しむことが欠かせません。絵本の読み聞かせは文字が読めるようになる前から物語に親しむためのものでもあります。ですから親子で楽しむように日常に取り込んだ形での絵本の読み聞かせが読み聞かせの基本なのだと考えています。そして集団で楽しむ時も物語を物語として楽しむための読み聞かせが大事だと考えています。