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物語の展開

 ストーリーテリングの楽しみ方と読み始めの子どもたちの読書の楽しみ方は近いと考えています。どちらも物語を丸ごと受け取り物語の展開を楽しむ事で成り立っていると感じているからです。そのためストーリーテリングの語り手として物語に取り組むことは読み始めの子どもたちが楽しめるであろう本を選ぶ時や本を紹介する時の力になります。

 ストーリーテリングのテキストは読書に慣れたおとなにとって読み物としては物足りないと感じられるのではないかと思います。先の想像がついてしまう上に繰り返しが多いからです。けれどこの作りは聞く時には威力を発揮します。物語を聞いて受け取る時は、途中で止まったり前に戻ったりできずに物語が進んでいくからです。耳だけが頼りで物語を受け取っている時には先が予想できその通りになっていくことは退屈なことではなく自分が物語の舵をとっているような高揚感を味わう事ができるからです。この受け身でない感覚が物語を受け取る際にはとても重要です。実際自分で読む時には読書は受け身ではなく必要に応じて止まって考えたり前に戻って確かめたりしますし、読むスピードもそれぞれ違います。けれどそれは法則がある訳ではなく読むスピードの変化も比較できるものではありません。そのため実際読書の仕方として能動的に読むようにと言葉で説明してしまうと考えることに比重が行きすぎたりして問題点を探し出すような読み方になってしまい物語を楽しむことから離れてしまいがちです。物語を読み通すことと考えながら読むことのバランスは経験で培っていくものなので言葉で教えきれないのだと考えています。読書は読み通す事が前提でこの受け身でないことと物語を丸ごと受け取ることが両立してこそ成り立つのだと思います。

 そして読み始めの子どもたちが自分で読む事につまずくのはこの両立が体験したことのない事だからだと推測しています。加えて読み通す事に対するサポートが自由に本を選ばせる事に特化されすぎていることもつまずきを大きくしていると考えています。読みやすさを字の大きさや本の厚さで子どもに判断させてしまうのは残念としか言いようがありません。また読み通すには好奇心が大事とはいえ子どもの好みを尊重することに偏りすぎて挿絵でしか好みが反映されていないことも自分で読む楽しみを半減させていると思います。ストーリーテリングを聞き慣れることは読み通すことのおもしろさを知るための手掛かりになると思います。読み通すことでしか受け取れないおもしろさを伝えるのがストーリーテリングだと考えています。