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物語を追う力を育む

 ストーリーテリングをして子どもたちに物語を渡した時とおとなに渡した時の手応えの違いは、物語の中の出来事を起きた事としてそのままストンと受け取る素直さがあるかないかだと思います。おとなは物語の中の出来事であっても自分の価値観に照らしあわせて評価しながら聞いていると感じる事が多いです。欲張り爺さんの言動に眉をしかめたり、主人公が継母にいじめられたりすると気の毒そうな顔をするのは決まっておとなの聞き手です。子どもたちが表情を変えたり声をあげたりする時はそんな事が起こる事があるんだという驚きの場合がほとんどです。笑ったりするのも出来事に賛同したり物申すという感じではなく驚きのあまり思わずと言った印象を受ける笑いが多いです。ですから子どもたちの反応と言ってもよく聞いている子ほど物語の中に深く入り込んで出来事を必然として受け止めていく印象があります。

 そしてこの出来事を出来事として受け取る聞き方が物語を追う力なのだと思います。この物語を追う力は自分で読書をする際に活字を追う原動力になります。そして物語を追う力は物語をたくさん受け取る事で身につくものだと考えています。何冊読んでもらったかとか何回読んでもらったというような数字で表されるものではなく砂に水が染み込むような聞く体験の積み重ねによって身につくものだと思います。このタイプの読み聞かせは時間も手間もかかるものなので親子で過ごす時間が長い就学前の家庭で行って欲しいと期待されるのだと思います。

 一方集団に対する読み聞かせは家庭での読み聞かせと同じ役割を担っているのではなく、聞く体験が不十分であっても家庭での読み聞かせの代わりとして行うのは違うと感じています。家庭での読み聞かせの代わりになるには自分のために読んでもらっているという特別感がない上、頻度が少なすぎますし集団には集団でしかできないこともあります。集団の強みは物語を追う力がある子がゼロではないことです。そしてその子たちが核になって聞くことの手本を見せてくれるので物語を追うのが苦手な子も影響を受けて物語に入って行きやすくなります。集団でも聞く体験を積み重ねていくことで就学前より速いスピードで物語を追う力がついて行きます。物語を追う力を意識して集団を生かした聞く体験の場を作っていく事が重要だと思います。