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声を使うから

 本の紹介だけでなく読み聞かせもそうですが、声を使って伝えることは自分が思っている以上に伝える側の心の持ちようが大事です。気が散っていたりするとそれが声にのって聞いている側に伝わるからです。気が散っていると言っても伝えようとしている事と違うことを考えてしまう事全般が該当し様々なものが含まれます。気が散るというと今やっていることと別のことを考えていることが思い浮かびますがおとなの場合その点のコントロールは難しくありません。けれど自分一人の作業と違って人に伝える時には伝えようとすることから意識が逸れることも気が散っている印象を聞き手に与えます。例えば言い間違えた時、しまったと思い間違えないようにしようと気を引き締めると間違えないようにしようという意識が声にのります。ですから聞いている方には間違えないように話すことが大事ということも伝えている側の意識とは別に伝わります。聞いている側は伝える側の事情などは本当は知りたいことではないと思います。どちらかというとそういうものが混ざると本当に伝えたい事の純度が下がり雑音が混ざるような感じになるので本当に大事なものを受け取りにくくなるのだと考えています。声を使って伝える難しさはここにあります。伝えている側の集中力が問われるのです。

 そして語る時には聞き手という伝えたいことの受け取り手がいるので、聞き手の様子を感じながら伝えていく必要があります。集中力といっても自分の中で完結して閉じた形にしては本末転倒なのです。ですから本の紹介や読み聞かせは聞き手と伝える側双方で作り上げるものだと考えています。一回一回違い、同じ本を使っていてもそっくり同じにならない事が魅力でもあるのです。声を使うということは、こういった一期一会の感覚から切り離せないものなのだと考えています。録音では伝わらないものがあると感じているのは、この聞き手と伝える側が相互に影響しあっていることと伝える側の伝えようとする集中力が見せてくれるものがあるからです。声を使って伝えることの奥深さを感じています。